洗剤と洗浄の科学

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汚れとは ?
 平素、私たちはあまりにも身近にありすぎて無意識に汚れと言っているが、それでは汚れとは一体なんだろう。この際少し意識してみてはどうであろう。実は汚れとは「あるべき場所ではない所についている物質」と定義づけられている。
 つまりソースやケチャップが肉などの上にかかっていればそれは食品の一部であるが、ひとたびテーブルクロスや衣服につけばそれが汚れとなるし、絵の具がキャンパス上にある時は美しい絵として人々の目を楽しませてくれるが、それがカーテンにつけば、それは汚れとなってしまうのである。


汚れをあばく
 私たちをとりまく汚れは種々雑多であるが、これを機にそれらに科学的なメスを入れて整理してみよう。よく見ると大きく分けて二つに分類する事ができそうである。すなわち、

  1.人体から分泌されたり排泄されるもの

 
2.外的な生活環境からくるものである。

1.人体からの汚れ
(1)皮 
 皮脂とは皮脂線から分泌され、皮膚表面に脂肪膜をつくって皮膚を保護する役割をするもので人体にとっては大切なものである。しかし、ひとたび衣服につく汚れとしてみた場合、衿や袖口、靴下などで最も頑固な汚れの原因となり、十分洗い落とすのは非常にむずかしいとされているが、着用日数とともにつく量が増えていく。特に最初の五日間に大きく増え、一週間経つと布の量の一割近い脂質がつく事がわかる。(図4)

 皮脂はいろいろな種類のあぶらの成分(ついでに、ここであぶらについて説明しておこう。正確に言うと「油」と書いた場合は天ぷら油やオリーブ油のように室温で液体であるものの事で、肉類の中の白い塊のように室温で固体であるものの場合は「脂」と書き両方を一緒にして油脂と言うが、全体的な意味で専門用語では脂質と言う)を含んでいるが、皮下脂肪と同じ中性脂肪(32.5%)と石の構成分である脂肪酸(30%)とで大半を占めている。
皮脂の分泌量は、平均して一日に約14mlと言われているが、季節や体の部位によっても違い、夏より冬に多く、首や背中の部分に多く分泌される(表1)また年齢、性別によっても異なっており、学童期に最も多くみられ、全体的に男性より女性に多い事は、女性にとっては少なからずショックな実験結果である。(図5)


 皮脂汚れの最も大きな問題点は黄ばみの原因となる事である。皮脂汚れはそのまま何日も経過すると繊維内に入り込んだ後、脂質の成分が空気で酸化されて着色物質に変化するため布が黄ばんでくる(黄色化)洗っていても完全に落ちていないときは同じ事が起こる。(図6)

 皮脂はほかの汚れのボンド役をする。特に困のがこの事で、衿あかや汚れが特に落ちくいのは、皮脂に皮膚のあか(後述)や空気ちりやほこりがしっかりと張り付いてしまうからである。

(2)汗
 人間は、動いている時はもちろん寝ている時にも汗を出して体温調節を計っている。一日の汗量は人によっても違う。(図7)

 真夏で平均温度が30℃近いところで体重65sの人が室内で汗をかく量は、一日3L内外、日中戸外を歩けば一時間0.5L内外。
 工場などで暑い環境で仕事をする人は、一日8時間で1112Lの汗をかき、その汗はたちまち衣服をぬらす。


汗の黄ばみと汗くささの原因
 汗そのものは無色透明で無臭のものである。しかし汗のついた衣服が黄ばんでくることは誰しも経験している事である。なぜだろう。これは汗と一緒に分泌された皮脂の中の脂質成分が先ほどと同じように空気中の酸素によって酸化されて黄色物質に変化するためである。また、汗はなぜ汗くさくなって時間がたつにつれてひどくなるのだろう。これは汗が皮膚表面の細菌によって分解され悪臭を放つような物質に変わるためである。

 汗は繊維自体にダメージを与えるようになる。汗をそのままにしておくと、汗に含まれている素化合物が皮膚表面の細菌によってアルカリ性のアンモニア化合物に変化して繊維自体をもろくするようになるが、特にアルカリに弱いタンパク繊維、中でも絹に与える影響が大きい。また汗の中には酸性の汗もあり、そうなると酸にはセルロース繊維も弱いので綿や麻もダメーを受けるようになる。また、汗は塩分を多く含んでいるためにその影響も大きい。さらに酸化酵素を含んでいるので他の物を酸化しやすく、染料を退色させて色物が色あせてしまうような事も起こる。汗はご存知のように尿と同じ成分を含んでいるが、かなりうすいので水分を多く含んだそのままの状態ではあまり問題にならないように思われる。
 しかし、水分が蒸発すると酸、アルカリ、塩の影響がもろに出てくるので恐いのである。このうに汗は白物に黄ばみを起こしたり、色物を変退色させるだけでなく、繊維そのものをもろくする「くせもの」である事を忘れてはならない。

(3)「あか」の正体
 人体の表皮の一番外の層は新陳代謝によって角質化する。これは死んだ細肪なので次第にはがていくが、このはがれた表皮に汗と皮脂それに空気中のほこりやちりがくっついて「あか」となるのである。洗濯機で一応洗ってもよく残ってしまう衿や袖口の汚れの正体がこれである。外からのちりやほこりに色がついているため余計に目立つようになり、やっかいな汚れである。

(4)血 
 ご存知のように血液も洗い方を間違えると非常にとれにくくなるものである。これはタンパク脂質、糖質、無機塩類それに最もよく目立つ赤色の血色素をもっており、その上これが空気中で酸化して暗褐色に変色してくるため、残すと非常に問題となる汚れである。血液をいきなり熱いお湯につけてはならないことの理由は、主成分のタンパク質で熱で固まって繊維に固着して落ちなくなるためであるという事は、すでに多くの人が知っている事である。このとき落ちにくくなったタンパク質を落ちやすくするために酵素入り洗剤を使うと原理的には落ちやすくなるはずである。
 ここであえて原理的といったのは、あくまで酵素がちゃんと働いてくれるような条件で洗えばいう事である。

(5)糞  便
 これは昔から汚い物の代表とされてきたが、冷静に科学的見地からみればわれわれ自身が毎日べた物が形を変えて排泄された物質に過ぎないわけである。すなわち、食物の分解産物が主体であるが、それに消化吸収されなかった食物の残りかす、消化液、消化管をつくっている細胞や血球れに大腸菌はじめ種々の細菌類が加わっている。
 最も問題になると思われる細菌類については、著者らが成人用貸おむつを洗濯業者から回収し洗濯、後に残留した細菌類を検査したところ、表2に示すように一般細菌類が10〜10また10検出されたがこれらは問題のない菌である。危険性を持つ大腸菌、緑膿菌、ブドウ状球菌は検出されなかった。これは比較的高温で洗濯を行う事と漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)による菌効果によるものと考えられた。(なお、aはさらし、Bは綾織の木綿で、織り方違った二種のおむつを比較した)


 ≪ 使い捨ておむつについて考える ≫
  この汚れはおむつを対象としたものになるが、最近は使い捨て紙おむつの使用が普及して、おむつ洗いの手間がなくなった。とはいえ環境問題を考えるとき、現在のように汚れた紙おむつをどんどんいつまでも捨て続けてよいのだろうか。また資源の問題を考えても洗って使うようなリサイル的な方法にしないと紙資源浪費が森林破壊、引いては地球的レベルでの環境破壊につながるのではないかと気をもむのは考え過ぎであろうか ? これは世界的な問題である。

 さらに最近は、高齢化社会で、乳幼児だけではなく老人用のおむつも対象としなければならなっている。病院や老人ホームではレンタルの老人用おむつを使用している場合があると思われるが、私たちの研究室でかつて依頼されてクリーニングされた貸おむつに残留する物質の分析をした事があった。その結果かなりの量の油脂、胆汁色素、窒素化合物いわゆる糞便とか尿の成分、それに洗剤などが残存している事がわかった。そこでクリーニングのやり方の指導を行った所、常に改善された。このようにクリーニング業者にも管理指導が必要な事を痛感させられたのであ

再汚染
 洗濯のやり方自体にも注意が肝要で、汚れた洗濯液でいつまでも洗っていると再汚染しやすい。特に、洗剤成分が存在しないすすぎの段階で再汚染しやすいためすすぎは、きれいな水で行うべきである。

合成繊維は再汚染されやすい

 繊維にも再汚染されやすい繊維とされにくい繊維があり、合成繊維は再汚染されやすい。(図27
 そのため洗濯の時に注意すべき事は合成繊維の方を洗濯液の新しいときに洗って後からセルロース繊維のほうを洗うようにす
る事である。


蛍光増白剤
 漂白と増白「増白」と言う事をご存知だろうか ?
 黄ばんだ衣服を白くしたり、ついたシミを取り除くのには一般に漂白を行うが、漂白は色素の構造自体を化学的な方法でこわして、色を無くして白くする方法である。
 それに対して蛍光増白剤を使う場合は、眼に入ってくる反射光を補う事によって視覚に訴えて目に白く映るようにするものである。早く言えば目をごまかして白く見せるようにするわけで、この事を漂白に対して増白と言っている。
 純白というのはご存知のように、可視スペクトル全領域において全反射するものである。

PHの条件

 酸性の強い胃の中で働くものやアルカリ性で働くものがあるが、たいていの酵素は中性(ph7〜8)で最も
良く働く。しかし、弱アルカリ性洗剤へ配合する場合は、当然弱アルカリ性に活性をもつ酵素を使用しなければならない。
 図36は、現在洗剤に配合されている種類の脂質の分解酵素リパーゼの活性のph領域を示したものであるが、この酵素は低いphから高いph、すなわち酸性側からアルカリ性側にわたる広い範囲で高い活性を持つ事がわかる。しかし、温度が高くなるとその範囲がせばめられる事が示されている。


酵素が十分に働く時間の条件
 図37は一例として脂質としてを分解する酵素の効果を時間を追って調べた結果であるが、十分な効果を発揮するには一時間位かかっているのが分かる。酵素の種類にもよるが、十分な効果を発揮するには30分以上1時間位かかる。このように、それぞれの酵素にとって最も適当な温度、phが与えなければ十分または全く働かない「気むずかし屋」である。その上、洗濯時間の10分とか15分では1/5位の効果しかない。そこで、“つけ置き
い”をお勧めします。
 酵素入りの洗剤を使って酵素の働きを十分利用するためには、40度位の温度で30分以上のつけ置きしてから洗う方が、はるかに効果的である。


洗浴の温度
 洗浴の温度を10度程度からだんだん上げて、汚れの落ちる度合いを比較してみると46 に示すうに10度から40度までは徐々に上がっていき、40度から60度までは横ばい状態であるが、それ以上の温度ではかなり上昇し、90度では90%近くの汚れが落ちている。

 又、図47はいろいろな種類の布地についた油脂汚れの洗浄に、温度がどのように影響するかを示したものであるが、これを見ると40度までは10%から20%程度しか落ちていないのに対して、6080%から90%も落ちるようになり、40度から60度の間で急激によく落ちるようになっているわかる。これは40度から60度の間に油の融点(固まっていた油脂が熱で溶けて液状になる温度)あるからである。


洗濯時間
 一般には洗濯時間が長いほど汚れがよく落ちると考えられがちであるが、再汚染の項で述べ26に示したように、汚れは落ちる一方で再付着するので、同じ洗浴で長い時間洗わない方が良い。
 49は筆者らがカーボンブラック(炭素の粒子、つまりすす)と油脂とを練り合わせて汚れとしこれらを白布につけて洗い、油成分とすすの成分が洗濯後にどれだけ布上に残っているかを別々に測定して得られた結果を図示したものである。

 どの場合も5分位までは時間とともに汚れは落ちているが、それ以降は変化が見られず、これ以は汚れが落ちていない事がわかった。このような実験的な裏付けからもわかるように、一回の洗時間はせいぜい10分程度とし、それで落ちない場合は洗濯液を新しくして二度洗いした方が良い言うのは、前にも述べた通りである。
 局部的に落ちていない場合は、全体を二度洗いする必要はなく部分的に手でもみ洗いをすれば効果的である。


 51はphと汚れが落ちて白くなる状態を示しているが、中性付近からph10までの間で急激にさが増して汚れが落ちているのがわかる。前述のように一般に、汚れには酸性のものが多いため、アルカリ性でよく落ちる。
 特に分子中に電気をもった油脂(例えば脂肪酸とかコレステロールで有極性の油脂という。たいていの油汚れは有極性の油脂を含む)はアルカリによって自分自身が石鹸となり(けん化という)洗濯中に溶けて出るので非常によく落ちる。
 石鹸の事を述べた際、合成洗剤より石鹸の方が汚れを落とす力が大きい事を示したが、ここで再び繊維の種類をいろいろ変えて検討して確認した結果を図52に示す。


 ここに示した繊維の種類については、綿という親水性の天然セルロース、ポリエステルという疎水性の合成繊維、ナイロンは疎水性の合成繊維であるが化学構造が毛や絹に似ているものである。


 使われている溶剤であるが、これによるとタンパク質汚れのついた衣服をそのままドライクリーニングに出すと非常に取れにくくなり、場合によっては汚れがついたまま返ってくる事もあり得る事を意味している。
 さらに図78は種々のタンパク質汚れをドライクリーニングで用いる。代表的な二つの溶剤パークロロエチレンと石油系溶剤で洗浄した結果を比較したものである。どれをみても白い棒で示した石
油系溶剤を用いた時の方が良く落ちており、パークロロエチレンではほとんど落ちてない。

 溶剤によって変性してむしろ落ちにくくなっている可能性を示している。


タンパク質汚れをよく溶かすアンモニア水
 図79は熱で変性して落ちにくくなったタンパク質を1/5位薄めたアンモニア水にしばらくつけた時と、それをさらに洗った場合の落ち方を比較した私たちの実験結果であるが、普通に洗ってもほとんど落ちなかったタンパク質汚れがアンモニア水につけて、しばらくおいただけで60%程度落ちてしっている。さらに、水だけで洗った場合、15%程度多く落ちており、市販洗剤に最も良く使われているアニオン界面活性剤であるlasで洗濯すると25%多く落ちている。
 この場合、石鹸を用いると全体でほとんど100%近く汚れが落ちている事がわかる。これはアンモニア水はタンパク質をよく溶かし、その後の洗浄ではアルカリ度の一番高い石鹸で洗った場合に一番効果が高い事を示している。
 このようにアンモニア水に溶けやすい事は、シミ抜きに応用できるし、この場合アンモニアが揮発性であるため放置しておけば自然に揮発して、あとに残る心配のない事もメリットである。



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